フランシスコ・デ・ゴヤの作品一覧・解説『1808年5月3日』、『我が子を食らうサトゥルヌス』

フランシスコ・デ・ゴヤの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。

我が子を食らうサトゥルヌス

「黒い絵」シリーズの一作で、スペインの画家ゴヤが自身の邸宅「聾者の家」の壁に直接描いたものです。
ギリシャ神話に登場するタイタン神クロノス(ローマ神話ではサトゥルヌス)が、自らの子に王位を奪われることを恐れて次々と食い殺したという伝説を題材としています。
本作は暗い背景の中で、目を見開いた狂気的な表情のサトゥルヌスが、血まみれの子供の体を噛みちぎる姿を描いており、異様な緊張感と恐怖を感じさせます。
色彩は黒や赤を基調とし、荒々しい筆致が特徴で、ゴヤの晩年の精神状態や当時のスペイン社会の混乱を反映しているとも考えられます。

我が子を食らうサトゥルヌス
Date.1819年-1823年

着衣のマハ

「裸のマハ」と対をなす作品として知られています。
横たわる女性が優雅な表情でこちらを見つめ、絹のような衣服がその官能的な身体の輪郭を引き立てています。
衣装は当時のスペインのマハ(庶民の粋な女性)のファッションを反映しており、白いブラウスと華やかな金糸の刺繍が施されたジャケットが特徴的です。
柔らかい筆致と明るい色彩が、モデルの肌の滑らかさや布の質感を際立たせています。本作のモデルについては諸説あり、スペイン王妃マリア・ルイサやアルバ公爵夫人といった有力な女性が候補として挙げられていますが、確定はしていません。
また、当時のスペイン宗教裁判所が「裸のマハ」を問題視したため、それを隠す目的で「着衣のマハ」が描かれたともいわれています。

着衣のマハ
Date.1798年-1805年

裸のマハ

「着衣のマハ」と対をなす作品として知られています。
白いシーツの上に横たわる裸の女性が直接こちらを見つめる挑発的な構図が特徴で、当時のヨーロッパ絵画において公然と陰毛を描いた最初の作品の一つとされています。
肌の滑らかさや血色の良い頬が際立ち、光と影の繊細な描写によって立体感が強調されています。
モデルの正体については諸説あり、アルバ公爵夫人やゴヤの愛人とする説があるものの、確定していません。
本作はスペイン宗教裁判所によって問題視され、ゴヤは異端審問にかけられましたが、依頼主であるスペイン首相マヌエル・ゴドイの庇護により罰を免れました。
後に「裸のマハ」を覆い隠すために「着衣のマハ」が描かれたともいわれています。

裸のマハ
Date.1797年-1800年

1808年5月3日、マドリード

ナポレオン軍によるスペイン市民の処刑を描いた歴史的な絵画です。
この作品は、スペイン独立戦争の一環として、ナポレオンの軍隊がマドリードの市民を無差別に殺害した事件を描いています。
中央には、白いシャツを着た男性が絶望的な表情で銃殺される瞬間が捉えられており、彼の手は胸の前で広げ、まるで命乞いをしているかのように見えます。
周囲には他の犠牲者たちと兵士たちが描かれており、暗い背景と強烈な光の対比が、劇的で感情的なインパクトを強めています。
この作品を通じて戦争の残虐性と人間の苦しみを強く訴えかけ、反戦芸術として高く評価されています。

1808年5月3日、マドリード
Date.1814年

魔女の夜宴

スペインの啓蒙思想家であるオスナ公爵夫妻の依頼により描かれた「魔女の画」シリーズの一作です。
本作は、山羊の姿をした悪魔が魔女たちを取り囲む不気味な儀式の場面を描いており、黒魔術や迷信への批判が込められています。
画面左では老婆が赤ん坊を捧げており、魔術の生贄として捧げられる様子を暗示しています。
暗い背景と対照的に、登場人物の顔や手が不気味に浮かび上がるように描かれており、幻想的かつ不安を煽る雰囲気が特徴的です。
この作品は、当時のスペイン社会に蔓延していた迷信や宗教裁判の非合理性を風刺する意図があったと考えられています。

魔女の夜宴
Date.1820年-1823年

カルロス4世の家族

スペイン王家の集団肖像画で、当時の国王カルロス4世とその家族を描いた作品です。
宮廷画家としてのゴヤが公式に手がけたもので、ディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス」に影響を受けた構成が特徴です。
画面中央には王妃マリア・ルイサが立ち、国王カルロス4世はその隣で控えめに描かれています。
周囲には王子や王女たちが配され、左端の暗がりにはゴヤ自身の姿も見られます。
王族の顔立ちは驚くほど写実的で、時に醜悪とも評されるほどありのままに描かれており、これが宮廷への風刺とも解釈されています。
また、画面左の女性は婚約者未定の王女を象徴し、顔がぼかされています。豪華な衣装と勲章が権威を示す一方、人物の表情には個々の性格や人間味がにじみ出ています。
ゴヤの宮廷画家としての技量と独自の視点を示す代表作の一つとされています。

カルロス4世の家族
Date.1800年-1801年

砂に埋もれる犬

「黒い絵」シリーズの一作で、ゴヤが自身の邸宅「聾者の家」の壁に直接描いたものです。
本作は、広大な空間の中で傾斜のある砂地に埋もれかけた犬の頭部が画面の下部に小さく描かれており、犬が何かを見上げているようにも、助けを求めているようにも見える抽象的かつ謎めいた構図が特徴です。
背景は単色の広がりで、荒々しい筆致が孤独や絶望感を強調しています。
一般的な解釈としては、人間の無力さや運命に翻弄される存在を象徴しているとされ、ゴヤの晩年の精神状態や死への恐れを反映した作品とも考えられています。
本作は極端に簡素な構成と表現で、後の抽象画や現代美術に先駆ける要素を持ち、美術史上の重要な作品の一つとされています。

砂に埋もれる犬
Date.1819年-1823年

棍棒による決闘

「黒い絵」シリーズの一作で、ゴヤが自身の邸宅「聾者の家」の壁に直接描いたものです。
本作は、荒涼とした背景の中で、2人の男が膝まで地面に埋まりながら棍棒で殴り合う凄惨な場面を描いています。
彼らは抜け出せないまま互いを打ち続ける運命にあるかのようで、人間の暴力性や無意味な争いを象徴していると解釈されています。激しい筆致と暗い色調が緊張感を高め、当時のスペイン社会の混乱や内戦の影響を反映しているとも考えられます。
ゴヤの晩年の作品として、単なる現実描写を超えた寓意的な表現が特徴であり、現代美術にも影響を与えた重要な作品の一つです。

棍棒による決闘
Date.1820年-1823年

巨人

巨大な裸の男が暗雲の広がる荒野に座り、背を丸めながら遠くを見つめる姿を描いています。
力強い体躯とは対照的に、彼の表情や仕草には不安や無力感が漂い、戦争や社会不安を象徴していると解釈されています。
本作はナポレオン戦争中に制作された可能性があり、スペインの苦境や個人の無力さを示唆しているとも考えられます。
長らくゴヤの作とされてきましたが、近年では弟子のアセンシオ・フリアの作品である可能性も指摘されています。
その象徴的な表現と力強い構図からゴヤの代表的な作品の一つとして広く知られています。

巨人
Date.1808年-1812年

アリエタ医師のいる自画像

重病を患ったゴヤが自らを救った医師アリエタへの感謝を込めて描いた作品です。
画面中央には衰弱したゴヤがベッドにもたれかかり、医師アリエタが彼を支えながら薬を与える姿が描かれています。
ゴヤの顔は青白く、苦悶の表情を浮かべており、その対比として医師は献身的な態度で描かれています。
背景には影のような不気味な人物たちが薄暗く浮かび上がり、死の影や悪夢のような幻覚を暗示しているとも解釈されています。
本作は単なる肖像画を超え、生と死の境界や人間の脆弱さを描いた強い感情表現が特徴的です。

アリエタ医師のいる自画像
Date.1820年