
パルミジャニーノの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
聖パウロの改宗
聖パウロがキリストの声を聞き劇的に改心する瞬間を描いた作品で、マニエリスム様式の特徴が強く現れています。
画面中央には倒れた聖パウロが大きく配置され、引き伸ばされた肢体や誇張されたポーズによって精神的衝撃と神秘体験が視覚化されており、馬や兵士たちが画面を取り囲みながらも非現実的な空間構成となっており、遠近法の破綻や不安定な構図が超自然的出来事の異常さを強調しています。
色彩は抑えられつつも選択的に強調され、静寂と緊張感が共存する劇的な雰囲気を醸し出しています。
この作品は宗教的主題を形式的実験と結びつけた点で、典型的なマニエリスム絵画として位置づけられます。

Date.1527
聖母子
パルミジャニーノの『聖母子』は複数存在しますが、典型的な作例ではマニエリスム特有の優雅で引き伸ばされた人体表現が際立ち、聖母マリアと幼子イエスが理想化された美しさで描かれています。
マリアは細長い首や繊細な手をもち、静かな表情でイエスを見つめ、イエスもまた大人びた顔立ちで母を見上げています。
柔らかな色彩と流れるような衣の線、安定よりも装飾性を重視した構図によって、静けさと霊性が融合した気品ある雰囲気が生まれています。
自然主義ではなく感覚的な美と精神性を追求したこの作品は、ルネサンスの均整から逸脱し、マニエリスム美術の本質を体現しています。

Date.1540
長い首の聖母
マニエリスム様式の代表作で、聖母マリアと幼子イエスを理想化された優雅なプロポーションで描いています。
マリアは異常に長い首と手足、細身の体で描かれ、衣の流れるような線と優美な姿勢が女性的な美を強調しています。
幼子イエスも不自然に引き伸ばされた体でマリアの膝に横たわり、その死を予感させるポーズが象徴的で、背景には柱と小さな預言者が配され、遠近感が不均衡で空間の歪みが意図的に生かされています。
伝統的な均衡や自然主義から逸脱し、神秘性と装飾性、優雅さを極端に追求したこの作品は、ルネサンスからマニエリスムへの転換点を示す重要な絵画とされています。

Date.1535
聖カタリナの神秘の結婚
聖カタリナが幼子イエスと霊的に結ばれる瞬間を描いた宗教画で、マニエリスム特有の優美さと形式美が際立っています。
画面中央には聖母マリアが幼子イエスを抱き、聖カタリナが恭しく指輪を受け取る構図で、三者の表情や視線が穏やかに交差し、神秘的な親密さが表現されています。
人物は引き伸ばされたプロポーションで描かれ、柔らかな色彩と流麗な線が全体に調和を与えており、背景には天使や古典的建築が配置され、現実と神秘の空間が融合しています。
この作品は敬虔な主題を通して霊的結合と理想美を追求した、マニエリスム絵画の洗練された一例とされています。

Date.1529
聖ヒエロニムスの幻視
聖ヒエロニムスが神の啓示を受ける神秘的瞬間を描いた作品で、マニエリスム様式の劇的な構図と繊細な感情表現が特徴です。
画面には裸で横たわる聖ヒエロニムスが大きく描かれ、その身体は引き伸ばされたプロポーションと複雑なポーズで視線を引きつけます。
彼の視線の先には幻視としてのキリスト像が現れ、静かな緊張感と霊的高揚が漂い、周囲の空間は簡潔ながらも奥行きを持ち、幻想的な光が神秘性を強調しています。
色彩は抑制されつつも繊細で、構図や身体表現において古典的均衡から逸脱しながらも精神性と装飾性を融合させた本作は、パルミジャニーノの宗教的主題に対する内面的アプローチと形式的実験の到達点とされています。

Date.1527
トルコの奴隷
女性肖像画で、作品名とは異なりトルコ人や奴隷ではなく、当時の上流階級の女性を理想化して描いた作品です。
モデルは不明ですが、洗練された身なりや優雅な身振りから高貴な人物と推測されます、
女性は正面を見つめ、繊細な顔立ちと長い首、引き伸ばされた体の比率にマニエリスムの様式が明確に表れています。
衣装は豪華で細部まで精緻に描かれ、特に髪に飾られた羽飾りがタイトルの由来となっていますが、これはオスマン風ではなくルネサンス期のファッションの一部です。
背景は単純化され、人物の存在感が際立ち、静けさと優美さを兼ね備えた肖像画として評価されます。
この作品は肖像画における理想美と個性の融合、そしてマニエリスムの洗練された装飾性を象徴する優品とされています。

Date.1533
アンテア
女性肖像画で、モデルの正体は不明ながら、その優美で神秘的な存在感からルネサンス期の理想女性像を体現する作品とされています。
女性は正面を向き、やや控えめな表情と長く引き伸ばされた首、洗練された手の動きが特徴で、マニエリスム特有の誇張された美しさが際立っています。
豪華な衣装やアクセサリーが細密に描かれ、女性の社会的地位や気品を象徴すると同時に、装飾性の高さも強調され、背景は暗く簡素で、人物の柔らかな肌と衣装の質感が際立ち、静かな緊張感と内面的深さが画面に漂います。
この作品は実在の人物の写実というより、理想化された女性像として、パルミジャニーノの洗練された様式と感性を示す代表的肖像画と評価されています。

Date.1535
凸面鏡の自画像
彼がまだ20歳の時に制作した革新的な自画像で、凸面鏡に映った自分の姿をそのまま模写することで空間の歪みや反射効果を精緻に描き出しています。
画面には湾曲した背景や大きく膨らんだ右手、歪んだ顔などが映り込み、若き画家の技術と観察力、そして自己意識の高さを示しています。
鏡の歪みを正確に再現することで、現実と視覚の関係に対する興味と、マニエリスム的な形式の探求が表れています。
また、この作品はローマのパトロンへの自己紹介として描かれたとされ、芸術家の知性と創造力を誇示する意図が込められています。
技巧的実験と自己表現が融合した本作は、西洋美術における最初期の自意識的な自画像の一つとして高く評価されています。
