
ラファエロ・サンティの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
アテナイの学堂
ヴァチカン宮殿の署名の間に描かれたフレスコ画で、古代ギリシャの哲学者たちを理想的建築空間に集め、知の調和と理性の尊厳を象徴しています。
画面中央にはプラトンとアリストテレスが並んで歩み、プラトンは天を、アリストテレスは地を指す仕草で哲学思想の対比を示しています。
周囲にはピタゴラス、ユークリッド、ディオゲネス、ヘラクレイトスらが配され、それぞれの思想や学問に応じた動作や道具が与えられ、人物像は実在の芸術家をモデルにしており、プラトンにレオナルド・ダ・ヴィンチ、ヘラクレイトスにミケランジェロ、アペレスに自画像のラファエロ自身が描かれています。
奥行きのある遠近法、古典建築を模した空間、調和の取れた構図と色彩によって、人文主義的理想が視覚化され、ルネサンス精神の頂点を示す傑作とされています。

Date.1509-1511
キリストの変容
ラファエロ・サンティの絶筆とされる宗教画で、キリストの神性顕現と人間の苦悩を対比的に描いた二層構造の構図が特徴です。
上部ではキリストが光に包まれて宙に浮かび、左右にモーセとエリヤ、下方に驚く三使徒が配置され、神秘的な変容の瞬間を荘厳に表現しています。
一方下部では悪霊に取り憑かれた少年と騒然とする人々が描かれ、人間の苦悩や混乱が写実的かつ劇的に表現されています。
光と闇、静と動の対比により、天上と地上の精神的隔たりが強調され、ラファエロの構成力と感情表現の成熟が示されています。
色彩や動勢、遠近法の活用も極めて洗練されており、ルネサンス絵画の集大成として高く評価されています。

Date.1520
システィーナの聖母
モデルはパン屋の娘とされるラファエロの愛人マルゲリータと考えられています。
半裸の女性は柔らかな眼差しで見る者を見つめ、片手で胸を覆いながらもう一方の手には透けた布を持ち、官能性と気品を併せ持つ姿で描かれています。
腕輪には「RAPHAEL URBINAS」と署名が刻まれ、画家とモデルの親密な関係を示唆しており、背景は暗く簡素で、人物の肌の柔らかさや表情の微妙な感情が際立ち、理想化された美と人間的な魅力が融合しています。
この作品はラファエロ晩年の私的かつ繊細な肖像画であり、愛と美の象徴として高く評価されています。

Date.1512
ラ・フォルナリーナ
イタリア・ルネサンス後期に制作された油彩画で、女性の半身像を描いています。
「フォルナリーナ」とは「パン屋の娘」という意味で、モデルはマルゲリータ・ルーティとされ、ラファエロの愛人だった可能性が高いと考えられています。
女性は裸で、右手で胸を隠し、左手には透明なヴェールを巻きつけ、上腕には「RAPHAEL URBINAS」と署名された腕輪をつけており、これは画家が自らの所有や愛を示したと解釈されています。
背景は暗く、人物の官能性と神秘性が強調されていますが、単なる肖像画ではなく、聖母の理想像やヴィーナス像の要素も重ねられており、俗と聖の間に揺れるラファエロ晩年の複雑な心理を映し出す作品とされています。

Date.1520
聖母の結婚
若き日の代表作であり、イタリア・ルネサンス初期の洗練された構図と遠近法の完成度を示す油彩画です。
主題は『新約聖書外典』に基づく聖母マリアと聖ヨセフの結婚の場面で、中央に司祭が立ち、左にマリア、右にヨセフが描かれ、ヨセフはマリアの手に指輪をはめています。
周囲には他の求婚者たちがいて、嫉妬から折れた杖を持つ人物も見られます。
背景には美しく整った中央遠近法の神殿建築があり、画面全体の調和を高めており、これは師であるペルジーノの同主題作品への明確なオマージュでありながら、それを凌駕する空間表現と人物の生動感によってラファエロの才能の飛躍を示しています。

Date.1504
ガラテイアの勝利
ギリシャ神話に登場する海の精霊ネレイデであるガラテイアが、貝殻の馬車に乗り海上を進む姿を描いた神話画で、詩人カスタリオーネの詩に触発された作品です。
画面中央のガラテイアは、ダイナミックなポーズで螺旋運動を描きながら前方に進み、周囲にはトリトン、ネレイデ、キューピッドたちが取り巻き、官能性と躍動感に満ちた祝祭的な情景が展開されます。
理想化された人体表現と完璧な構図が特徴で、ラファエロの古典主義的美意識とルネサンス期の神話解釈が融合した、視覚的洗練と寓意性を兼ね備えた作品です。

Date.1514
聖体の論議
キリスト教における聖体の神秘とその教義的意義を視覚的に表現した宗教画で、上下二層構造の構図が特徴です。
上部にはキリストを中心に聖母マリア、洗礼者ヨハネ、天使、諸使徒が配され、天上の栄光を象徴し、下部には教父や聖人、神学者、教皇、哲学者たちが聖体をめぐって論議する場面が広がり、中心には祭壇と聖体顕示台が置かれています。
天と地、信仰と理性、神秘と教義が一体となった構成によって、聖体が人間と神とを結ぶ核心的存在であることを象徴的に示しており、精緻な遠近法と人物配置によって視覚的にも思想的にも深い調和が達成されています。

Date.1509-1510
騎士の夢
小型の寓意画で、若き騎士が剣と書物を膝に眠る姿を中心に描かれ、彼の前には二人の女性が立っています。
一人は花を持ち快楽や愛を象徴し、もう一人は剣や書を示し徳や義務を象徴しており、これはヘラクレスの「美徳と快楽の選択」伝説に基づくとされます。
騎士は夢の中で人生の選択に直面しており、快楽に流されるか、徳に従うかという道徳的葛藤を示しています。
画面は簡潔ながらバランスの取れた構図で、理想的な若者の精神的成長と内面的決断の瞬間を象徴的に表現しています。
