
ベルト・モリゾの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
ゆりかご
モリゾによる代表作で、彼女の姉エドマとその娘ブランシュを描いた家庭的で静謐な場面が特徴です。
画面中央には赤ん坊が眠る白いゆりかごがあり、その横で母親が見守る姿が描かれています。
柔らかい光と繊細な筆致により、母性や家族のぬくもりが印象派特有の色彩と光の表現を通して穏やかに伝えられています。
女性の日常や私的空間に焦点を当てたこの作品は、当時の男性中心の芸術界において、女性画家モリゾの視点と感性を力強く示すものとなっています。

Date.1872
ロリアンの港
初期に制作した風景画で、フランス・ブルターニュ地方の港町ロリアンを描いています。
モリゾはこの地を姉エドマとともに訪れ、自然と海辺の光景に魅了されました。
作品では、穏やかな海と港にたたずむ人物が描かれ、繊細な筆致と淡い色彩で静かな時間の流れが表現されています。
印象派に先駆けたこの時期から、モリゾは光や空気感に強い関心を示しており、日常の一瞬を詩情豊かに切り取る彼女のスタイルの萌芽が感じられる重要な作品です。

Date.1869
芸術家の母と妹
家庭内の静かなひとときを描いた初期の傑作で、自身の母と姉エドマをモデルにしています。
室内でくつろぐ二人の女性の姿を、柔らかな光と落ち着いた色調で描き、親密で内省的な雰囲気を醸し出しています。
女性の私的空間に注目しながらも、構図の緻密さや筆致の繊細さには古典的な訓練の跡が見られ、印象派への過渡期にあるモリゾの画風がよく表れています。
家庭という身近なテーマを通じて、静けさの中に感情の深みを感じさせる作品です。

Date.1869
ワイト島のウジェーヌ・マネ
ベルト・モリゾが夫ウジェーヌ・マネをモデルに、イギリス南部のワイト島での休暇中に描いた作品です。
画面には、リラックスした姿勢で椅子に座るウジェーヌが描かれ、彼の周囲には静かな自然風景が広がっています。
モリゾはこの絵で、柔らかな筆致と明るい色彩を用い、穏やかな時間と内省的な雰囲気を表現しています。
人物と風景が一体化した構図により、印象派の自然観察と個人の感情描写が融合しており、家庭的な題材に詩的な深みを与えています。

Date.1875
ウジェーヌ・マネと庭の娘
夫ウジェーヌ・マネと娘ジュリーを描いた作品で、フランス郊外のブジヴァルにある自宅の庭が舞台です。
画面には木陰に座る父親と、その近くで遊ぶ娘の姿が描かれ、自然の光と柔らかな色彩によって穏やかで親密な家庭のひとときが表現されています。
印象派の技法を活かしつつ、人物間の感情や関係性を繊細に描写しており、モリゾの母性と芸術家としての視点が融合した成熟期の代表作で、静かな構図の中に、時間の流れや家族の絆が豊かに感じられる一枚です。

Date.1883
ジュリー・デイドリーム
画家の娘ジュリー・マネを主題にした晩年の作品で、母親としての愛情と芸術家としての観察眼が融合した繊細な肖像画です。
椅子にもたれて遠くを見つめるジュリーの姿は、無垢さと内面的な成熟を同時に感じさせ、タイトルの通り「白昼夢」に沈む思春期の少女の心情を静かに表現しています。
モリゾは柔らかい筆致と淡い色調で、人物と背景を溶け込むように描き、現実と夢想の境界を曖昧にしています。構図は静止していながら感情の流れを含み、私的な瞬間を詩的に昇華しているのが特徴です。
この作品はモリゾが病を患いながらも画業を続けた時期のもので、ジュリーへの深い思いがにじむ、内省的で成熟した作風を示す代表例といえます。

Date.1894
洗濯物干し
日常の穏やかな情景を繊細に描いているこの作品では、庭の中で女性が洗濯物を干す様子が描かれており、柔らかい光と自然の風景が調和しているのが特徴です。
モリゾは戸外制作(アン・プレール)を通じて光や空気感の表現に力を入れており、本作でも揺れる洗濯物や芝生の上の影などにその技法が活かされています。
筆致は軽やかで、色彩は淡く抑えられ、女性らしい視点から家庭の風景を詩的に捉えている点が印象的で、女性の労働を芸術的主題として扱うことで、当時の画壇における女性画家の位置づけにも新たな視点を与えました。
全体として、モリゾ独自の親密で静謐な空気感が漂う作品であり、印象派の光と生活へのまなざしを端的に示しています。

Date.1875
チェリーピッカー
田園風景の中で少女が木に登ってさくらんぼを摘む様子を描いた作品で、自然と人間のふれあいを繊細に捉えています。
少女のしなやかな姿勢や木々の葉の揺れが、モリゾ特有の柔らかい筆致と淡い色彩で描かれており、穏やかな夏の日の空気感が漂います。
構図は動きのある瞬間をとらえながらも、全体に静けさと親密さがあり、日常の中の詩的な美を表現しています。
女性と子どもの生活を主題とするモリゾの視点と、印象派の光への関心が融合した優れた例であり、自然の中での自由な時間や純粋な喜びが丁寧に描き出されています。

Date.1891
プシュケの鏡
ギリシャ神話の愛と魂を象徴するプシュケを題材にした作品で、繊細で女性的な感性が表れています。
鏡の前にたたずむプシュケが自分の姿を見つめる瞬間を描き、内面の自己認識や美への憧れが静謐な雰囲気の中に込められており、柔らかく淡い色彩と穏やかな筆致で描かれ、夢見るような優雅さと繊細な感情表現が特徴です。
モリゾの女性像に対する深い共感と詩的な表現力を示し、神話的題材を通じて個人の内面世界を描き出した印象派の重要な作品の一つといえます。
