
メアリー・カサットの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
ボートパーティー
印象派時代の中でも最も力強く構成的な作品の一つです。
画面には手前に母親と幼子がボートに座る姿が大きく描かれ、背景には力強くオールを操る男性の上半身が切り取られるように配置されています。
大胆な構図と強い対角線の動きによって画面に緊張感とダイナミズムが生まれ、同時に母子の静かな存在が対照的に際立っています。
水面は大きな色面として処理され、印象派的な光の揺らぎよりも平面的で装飾的な表現が重視されており、ジャポニスムや浮世絵の影響が感じられます。
母子を慈しむ視線とともに、近代的で洗練された構図を取り入れたこの作品は、カサットの芸術的成熟を示す代表作の一つといえます。

Date.1893
チャイルドバス
母と子をテーマにした彼女の芸術を象徴する作品です。
画面には母親が幼い子どもを膝に抱きながら足を洗っている親密な場面が描かれ、母子の身体は大きくクローズアップされて画面を満たしています。
柔らかなパステルの色彩は温かく落ち着いた雰囲気を生み出し、母の腕に支えられる子どもの安心した様子が細やかに表現されています。
構図は浮世絵を思わせる大胆な視点と切り取り方が特徴で、家庭的で私的な瞬間を芸術的な普遍性に昇華させています。
この作品は母性や日常の尊さを明快かつ力強く示し、カサットの母子像の中でも特に高く評価される傑作です。

Date.1893
青い肘掛け椅子の少女
印象派の中でもとりわけ子どもを主題とした作品としてよく知られています。
画面には大きな青い肘掛け椅子に身を沈めるようにして座る幼い少女が描かれており、その体の小ささと椅子の存在感との対比が強い印象を与えます。
少女は片方の手を顔に添え、退屈そうにも物思いにふけっているようにも見え、その自然な仕草がカサットの観察眼と親密さを示しています。
筆触は柔らかく光を感じさせるもので、衣服や椅子の質感を軽快に表現しながらも、人物の表情には繊細な感情が込められています。
カサットは印象派の中で女性や子どもの日常を主題にした画家として際立ち、この作品も家庭的で親密な瞬間を芸術へと昇華させた代表例のひとつといえます。

Date.1878
窓辺のライラック
室内から外の景色を眺める女性と、窓辺に置かれたライラックの花を組み合わせた作品です。
明るい自然光が窓から差し込み、花の色彩と女性の姿をやわらかく照らし出し、家庭的で静謐な空気が漂い、花と人物の位置関係は視覚的なバランスを重視して配置され、印象派らしい軽やかな筆致によって透明感のある空間が生まれています。
女性像はカサットが繰り返し描いた「日常に生きる女性」の典型であり、ライラックの存在が季節感と詩情を添えています。
カサットの親密で抒情的な視点を示し、女性の生活を芸術的主題へと昇華させた一例といえます。

Date.1879
麦わら帽子をかぶった子供
彼女が繰り返し描いた子どもの姿をテーマにした作品のひとつで、明るく自然な描写が特徴です。
大きな麦わら帽子をかぶった子どもが画面いっぱいに捉えられており、柔らかな光の中で健康的で生き生きとした存在感を放っています。
筆触は軽快で、衣服や背景は簡潔に処理される一方、顔の表情や帽子の質感には繊細な観察が注がれており、カサットが重視したのは理想化された肖像ではなく、子どもの自然な仕草や純粋さを捉えることにあり、この作品もその意図をよく示しています。
親密で温かな眼差しと印象派的な色彩感覚が融合し、日常の一瞬を芸術として昇華させた佳作といえます。

Date.1886
ファイブオクロックティー
サロン的な場面ではなく日常の家庭的な社交を主題とした作品です。
画面には室内でティーカップを手にした二人の女性が描かれ、互いに向き合いながら落ち着いた時間を過ごしている様子が表されています。
筆致は印象派らしく柔らかく、光を取り込むように人物や室内の質感が描かれ、特に白い陶器やテーブルクロスに反射する光が繊細に表現されています。
構図は親密さを強調するように近距離から切り取られ、女性の社交や日常のひとときを芸術的に昇華させています。
この作品はカサットが印象派の中で確立した「女性の生活」を主題とする独自の視点をよく示すものであり、家庭的な静けさと洗練が融合した佳作といえます。

Date.1880
髪を整える少女
日常の親密な瞬間を捉えた作品です。
画面には鏡の前で髪を整える少女が座っており、自然な仕草や表情が細やかに描かれています。
柔らかなパステルの色彩は光をやさしく反射し、肌や衣服の質感、髪の輝きまで繊細に表現されており、構図は近距離で人物を捉え、少女の動作と内面の静けさに焦点を当てることで、日常の一瞬を詩的に演出しています。
カサットが母子や少女の生活に見せる細やかな観察力と印象派的な色彩感覚を融合させた典型的な例であり、親密で穏やかな雰囲気が特徴です。

Date.1886
庭で縫い物をする若い女性
日常の静かなひとときを捉えた作品です。
画面には庭の明るい光の中で縫い物をする若い女性が描かれ、自然な姿勢や集中した表情が繊細に表現されています。
柔らかな筆致と明るい色彩が、庭の緑や光の反射、衣服の質感をやさしく描き出し、平和で落ち着いた雰囲気を生み出しており、構図は人物を中心に据えつつ、背景の植栽や光の広がりを取り入れることで空間の奥行きが感じられます。
カサットが印象派的手法で女性の日常生活を観察し、親密で自然な美を芸術に昇華させた代表的な例です。
