ギュスターヴ・カイユボットの作品一覧・解説『パリの通り、雨』、『床削り』

ギュスターヴ・カイユボットの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。

パリの通り、雨

印象派の特徴を持ちながらも写実的な精密さが際立っています。
パリの舗装された通りを歩く人々を高い視点から捉え、濡れた路面に映る光や影を巧みに描写しており、雨に濡れた街の透明感と反射を細部まで表現し、傘を差す人々や馬車、舗道の模様までリアルに描かれています。
遠近法を強調する構図により、観る者は実際に街を歩いているかのような臨場感を感じ、色彩は落ち着いたグレーやブラウンを基調としつつ、反射する水面に微妙な光を置くことで動きと空気感を生み出しています。
都市の日常を静かに観察する視点と、印象派特有の光と色の扱いが融合した名作です。

パリの通り、雨
Date.1877

床削り

パリの上流階級の邸宅で床を削る3人の職人を描いており、彼らは上半身裸で、膝をついて作業に集中しています。
床に散らばる木くずや、室内に差し込む自然光の描写が、リアルで精緻な印象を与え、カイユボットは、遠近法を巧みに用いて、床の曲線や人物の姿勢を強調し、立体感を生み出しています。
この作品は、当時のサロンに出品されましたが、労働者を主題としたことで批判を受け、落選しました。
都市で働く人々の姿を描いたこの作品は、印象派の特徴である日常の一瞬を捉える視点と、写実的な技法が融合した代表作といえます。

床削り
Date.1875

アルジャントゥイユのヨット

フランス・パリ近郊のアルジャントゥイユを舞台にしています。
この作品は、セーヌ川を行き交うヨットやボートを描いた風景画で、カイユボットが好んで描いたテーマの一つです。
画面には、白い帆を張ったヨットが数隻、穏やかな川面を滑るように進む様子が描かれており、背景には、川岸に並ぶ樹木や建物が淡い色調で表現され、静かな午後のひとときを感じさせます。
カイユボットは、光と影の微妙な変化を捉え、自然光が水面に反射する様子や、風に揺れる帆の質感を巧みに表現しています。
風景画の中でも特に評価の高い作品の一つで、彼の作品には、都市の風景や労働者の姿が多く描かれていますが、自然の風景を描いたこの作品も、彼の多彩な表現力を示すものとなっています。

アルジャントゥイユのヨット
Date.1888

入浴する男

カイユボットが描いた数少ない男性のヌードの一つとして注目されています。
画面には、金属製の浴槽から上がったばかりの男性が、背後から描かれています。彼は腰にタオルを巻き、体を拭いている最中で、床には濡れた足跡が残り、浴室の一部が映し出されています。
カイユボットは、男性の肉体を理想化することなく、日常的な姿勢や動作をリアルに描写しています。
この作品は、19世紀のフランスにおいて、男性のヌードが一般的でなかった中で、特異な存在として評価されています。また、1888年にブリュッセルで開催された展覧会「Les XX」に出品された際には、その内容が物議を醸し、展示室の隅に配置されるなど、当時の社会的な価値観を反映しています。
リアルな表現と日常的なシーンは、彼の作品における独自の視点を示しています。

入浴する男
Date.1884

ヨーロッパ橋

カイユボットが描いた数少ない都市風景の一つで、パリの近代化を象徴する鉄道橋「ヨーロッパ橋」を描いています。
画面には、橋の上を歩く人々や、橋の下を走る蒸気機関車が描かれ、都市の活気と近代化の進展を感じさせます。
カイユボットは、遠近法を駆使して、橋の構造や都市の景観を精緻に描写しています。
特に、鉄橋の格子状の構造や、橋の上を歩く人々の姿勢、橋の下を走る蒸気機関車から立ち上る煙など、細部にわたる描写が特徴で、光と影のコントラストを巧みに表現し、都市の雰囲気をリアルに再現しています。
カイユボットが描いた都市風景の中でも特に評価が高く、近代都市パリの一瞬を切り取った作品として、印象派の特徴を持ちながらも写実的な精密さが際立っています。
都市の発展と人々の営みを描いたこの作品は、19世紀後半のパリの姿を知る貴重な資料となっています。

ヨーロッパ橋
Date.1876

窓辺の若い男

窓辺に立つ若い男性を描いており、彼の姿勢や表情から、静かな思索や内面的な世界を感じさせます。
背景には、窓の外に広がる都市の風景が描かれ、19世紀のパリの一瞬を切り取った作品となっています。
カイユボットは、光と影のコントラストを巧みに表現し、人物と背景の調和を図っており、男性の衣服や髪の質感、窓枠の細部まで精緻に描写されており、写実的な技法が際立っています。
人物画としての完成度が高く、カイユボットの多彩な表現力を示すものとなっています。
また、カイユボットが描いた数少ない人物画の一つとして、彼の作品の中でも特に注目されています。

窓辺の若い男
Date.1875

ピアノを弾く若い男

家族の一員であるマルティアル・カイユボット(弟)をモデルにしています。
この作品は、カイユボットが描いた数少ない人物画の一つであり、印象派の展覧会にも出品されました。
描かれているのは、パリのミロムニル通りにあるカイユボット家の居間で、マルティアルがエラール製のピアノを弾いている場面です。
彼は真剣な表情で楽譜に集中し、手元の鍵盤に指を置いています。
室内の細部まで精緻に描写しており、壁紙の植物模様やカーテン、絨毯、椅子など、上流階級の家庭の優雅な雰囲気を伝えています。
特に、窓から差し込む自然光がピアノの鍵盤や脚部に反射し、落ち着いた室内の空気感を強調しており、、ピアノの蓋や鍵盤の落下板に映る反射も巧みに描かれ、光と影の微妙な変化が表現されています。
当時の上流階級の家庭での音楽の重要性を示すとともに、カイユボットの写実的な技法と印象派の光の捉え方を融合させた作品として評価されています。
また、人物がピアノに集中する姿勢や、室内の静かな雰囲気が、19世紀のパリの上流社会の生活様式を垣間見ることができる貴重な資料となっています。

ピアノを弾く若い男
Date.1876

屋根の眺め(雪の効果)

パリのモンマルトル地区の雪景色を描いています。
この作品は、カイユボットが印象派の仲間たちと共に季節の光と風景の効果を探求した成果の一つとして評価されています。
画面には、雪に覆われた屋根が広がり、重い灰色の空が全体を包み込んでいます。
ところどころに淡いピンク色が加えられ、冷たい中にも温かみを感じさせる色調が特徴です。
カイユボットは、通常の風景画と異なり、屋根の上から見下ろす視点で都市の景観を捉えており、この視点は、当時のフランス絵画では珍しく、写真家イポリット・バイヤールの影響を受けていると考えられています。
また、彼は色彩を抑えめにし、グレーやブルーを基調としたモノクロームのパレットで描くことで、雪の質感や冬の冷気を巧みに表現しています。
この作品は、1879年の第4回印象派展に出品されましたが、当時はあまり注目されませんでした。しかし、現在では代表作の一つとして高く評価されています。

屋根の眺め(雪の効果)
Date.1873

イエール川でボートを漕ぐ人々

フランス・イル=ド=フランス地方を流れるイエール川を舞台にしています。
画面には小舟に乗り込みオールを操る人々が描かれ、夏のレジャーとして流行していたボート遊びの一瞬を切り取っています。
カイユボットは印象派の仲間と同時代に活動しましたが、彼の筆致はクロード・モネらに比べるとより写実的で明確な輪郭をもち、対象の存在感を強調しています。
本作では水面のきらめきや光の反射を細やかに捉える一方で、人物や舟をはっきりと描き出し、臨場感と安定感を両立させています。
また、構図には写真のような瞬間的な切り取りが見られ、舟が画面の手前に大きく迫り出すような視覚効果は、鑑賞者を場面の中へ引き込む役割を果たしています。
当時の都市ブルジョワ層の余暇や近代的なライフスタイルを象徴するとともに、自然と人間との調和を洗練された視点で表現している点で、カイユボットの個性をよく示す作品といえます。

イエール川でボートを漕ぐ人々
Date.1877