
ジョヴァンニ・ボルディーニの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
目次
ジュゼッペ・ヴェルディの肖像
イタリアの偉大な作曲家ジュゼッペ・ヴェルディを描いた作品で、ボルディーニの肖像画家としての技術と感性が光る一作です。
この絵画はヴェルディの力強さと深い精神性を表現しており、特に彼の威厳を強調した顔の表情にその特徴が現れています。
ボルディーニは、ヴェルディの強烈な個性を引き出すために、彼の顔の輪郭をしっかりと描き込み、目力の強さを際立たせ、ヴェルディの特徴的な白髪や髭も詳細に描写され、その質感やボリューム感を見事に表現しています。
技法としては、ボルディーニが得意とする滑らかな筆使いと動的な筆致が活かされており、ヴェルディの衣装や背景においても流れるような表現が見られ、背景はシンプルでありながら、ヴェルディの存在感を引き立てるように配置され、全体的に洗練された雰囲気を醸し出しています。
この肖像画は、ヴェルディの音楽的な偉業だけでなく、その人物としての深い魅力も感じさせる、非常に完成度の高い作品です。

Date.1886
道を渡る
ベル・エポック期のパリの街路を舞台に、洗練された女性が颯爽と横断する姿を描いた作品です。
この絵画は単なる風俗画にとどまらず、当時の都市文化や女性の社会的存在感を象徴的に示しています。
ボルディーニは長いストロークと大胆な筆さばきによって女性の衣装をダイナミックに描き出し、布の光沢や動きを生き生きと表現しています。
背景の街並みや馬車、歩行者などは最小限の描写に抑えられ、速い筆致で処理されることで都会の喧騒とスピード感を醸し出し、画面全体に現代的な躍動感を与え、女性の姿勢や視線には自信と優雅さが漂い、ボルディーニが好んだ「新しい時代の女性像」としての力強さが強調されています。
19世紀末のパリの雰囲気とボルディーニ独自のスピード感ある筆法が融合した、都市と女性の活力を象徴する作品です。

Date.1873-1875
マルト・ド・フロリアン
19世紀末パリの社交界で知られた女性マルト・ド・フロリアンを描いた肖像画で、華やかなベル・エポック文化の象徴的作品です。
モデルは女優であり、後年の「奇跡の発見」として知られる、彼女の肖像画が密閉されたパリの屋敷から100年以上後に見つかったことでも注目されました。
この絵画はボルディーニが得意としたスピード感ある筆致で描かれており、特にドレスの光沢やシルクの柔らかい質感を、大胆で流れるようなストロークによって表現しています。
背景は控えめに処理され、モデルの存在感を前面に引き出し、鮮やかな赤い衣装と白い肌のコントラストによって気品と魅力を強調しており、彼女の姿勢や視線には自信と優雅さが漂い、単なる美の表象を超えて、当時の女性像や社交界の華やかさを象徴的に示しています。
ボルディーニの卓越した筆さばきと心理的洞察が融合した傑作であり、同時代の文化的空気をそのまま封じ込めた作品といえます。

Date.1888
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの肖像
同時代に活動した「アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック」を描いた稀有な作品で、社交界の華やかな女性を多く手がけたボルディーニの作風の中では異色の位置を占めます。
この肖像は、モンマルトルを拠点に独自の画風を築いたロートレックの個性を捉えることを意識しており、外面的な華美よりも内面的な鋭さに焦点が当てられています。
ボルディーニ特有の素早く流れる筆致は背景や衣服に活かされ、人物の姿を浮かび上がらせる効果を生んでいますが、顔の表情はより精緻に描かれ、ロートレックの観察眼や知的な緊張感がにじみ出るように表現されています。
背景は最小限に抑えられており、その分、モデルの存在感と心理的深みが強調され、華やかさよりも画家同士の相互理解と敬意を感じさせ、ボルディーニの筆技が人物の内面を巧みに引き出した作品といえます。

Date.1880-1890
ガブリエル・レジャン夫人
19世紀末パリ社交界で活躍した劇作家エミール・ゾラの妻ガブリエル・レジャンを描いた肖像画です。
この作品は、ボルディーニが得意とした洗練された社交界の人物画の代表例であり、当時のパリの上流社会における女性の華やかさと気品を象徴しています。
背景には印象派以降の光の捉え方や即興的な筆致の影響が見られ、スピーディーで流れるような筆さばきが画面全体に生気を与えています。
特に衣装の表現では、大胆に引かれた長い筆のストロークと細部を捉える繊細なタッチを巧みに組み合わせ、光沢や布の質感を鮮やかに描き出し、モデルの表情には内面的な強さと洗練された知性が感じられ、単なる外見の描写にとどまらず人物の個性を引き出す点がボルディーニの肖像画の大きな魅力です。
19世紀末の社交界文化とボルディーニ独自のスピード感ある筆致が融合した肖像芸術の典型例といえます。

Date.1885
饗宴の場面
19世紀末パリの華やかな社交界の雰囲気を映し出した作品で、彼が得意とした人物群像の中でも特に賑やかで祝祭的な空気を持つ絵画です。
舞踏会や晩餐会を思わせる室内の光景が描かれ、煌めく衣装に身を包んだ男女が談笑する様子は、ベル・エポック期の上流階級の生活を象徴しています。
ボルディーニは流麗な筆致を駆使し、ドレスの光沢やシャンデリアの輝きを即興的ともいえる速さで表現し、人物の動きや会場の熱気を臨場感豊かに伝えています。
背景はやや曖昧に処理され、観る者の視線を人物や衣装の輝きに集中させる工夫がなされており、画面全体が華やかなリズムで統一されており、スピード感あるタッチは、まるで音楽が流れるかのような高揚感を画面に与え、饗宴の場そのものを一瞬の閃光のように切り取っています。
全体として、この作品はベル・エポックの文化的活力とボルディーニの筆技の冴えを凝縮した、社交界絵画の傑作といえます。

Date.1889
サラ・ベルナールの肖像
19世紀末パリで絶大な人気を誇った大女優サラ・ベルナールを描いた作品で、ボルディーニの肖像画家としての力量が際立つ一例です。
この絵画は、舞台上での彼女のカリスマ性や個性を画面に封じ込めることを目的としており、単なる外見描写にとどまらず女優としての存在感を強調しています。
ボルディーニは彼女のしなやかな姿態を長い流れるような筆致で描き、衣装の華やかさや布の質感を光と影のコントラストで鮮やかに表現しており、背景は抑えられ、モデルの姿に視線が集中する構成となっており、その分、サラ・ベルナールの知性と妖艶な魅力が浮き彫りにされています。
肖像でありながら舞台上の演技の一瞬を切り取ったような生々しさを与えています。
ベル・エポック期の華やかさと女優の強烈な個性を同時に伝える、肖像芸術の傑作といえます。

Date.1880
2匹のペキニーズのリナビリティス
上流階級の女性と愛玩犬を題材にした作品で、ベル・エポック期の優雅な生活様式を象徴的に示しています。
ここで描かれるリナビリティス夫人は、2匹の小さなペキニーズ犬とともにくつろいだ姿で表され、単なる肖像画にとどまらず、富裕層の趣味や洗練された嗜好を反映しています。
ボルディーニは、人物の衣装を大胆で素早い筆致で描き、シルクやレースの光沢を鮮やかに表現しながらも、犬の毛並みには細やかなタッチを用いて柔らかさを伝えています。
背景はあえて簡略化され、女性と犬に視線が集まる構図となっており、画面全体に軽快さと上品な雰囲気が漂っています。
ボルディーニ特有のスピード感のある筆さばきは、社交界の女性の気品と愛玩動物との親密さを生き生きと描き出し、19世紀末の華やかな生活文化を象徴する作品に仕上がっています。

Date.1913
ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの肖像
同時代の芸術家仲間である「ジェームズ・マクニール・ホイッスラー」を描いた作品で、肖像画を通じて画家同士の敬意と交流を示すものです。
この絵は、ホイッスラーの特徴的な風貌と気品を的確に捉え、彼の芸術的個性を視覚的に表現しています。
ボルディーニは、背景や衣装に素早く流れる筆致を用いて空気感と軽快さを生み出しつつ、顔の描写には精緻なタッチを施し、ホイッスラーの知性と鋭い観察眼を強調しています。
黒を基調とした衣装とシンプルな背景は、モデルの存在感を引き立て、肖像全体に落ち着きと威厳を与えています。
ボルディーニ特有の速筆と流麗な線は画面に動きを与えながらも、ホイッスラーの内面的な深さを損なうことなく表現しており、単なる人物画を超えて芸術家の精神性を映し出しています。
この作品はボルディーニの筆技とホイッスラーの芸術的オーラが融合した、19世紀末の芸術家肖像の優れた一例です。
