カラヴァッジョの作品一覧・解説『聖マタイの召命』、『バッカス』

カラヴァッジョの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。

聖マタイの召命

ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会に貯蔵されている作品です。
この絵は新約聖書『マタイによる福音書』の場面を描いており、税吏だったマタイがキリストに召命される瞬間を表現しています。
薄暗い室内で、現代的な服装をした人物たちがテーブルを囲む中、右側からキリストが光と共に登場します。キリストは手を差し伸べ、マタイを指差して召命を告げます。マタイは驚きながら自分を指差し、「私ですか?」と問うような表情を見せています。
この場面での光と影の劇的なコントラストはカラヴァッジョの特徴であり、神聖な瞬間を現実世界に引き寄せる役割を果たしています。
絵の中の光はキリストの存在を象徴すると同時に、マタイが神に呼びかけられたことを象徴的に表現しています。

聖マタイの召命
Date.Date.1599-1600

聖マタイと天使

聖マタイが天使の導きによって福音書を執筆する姿を描いた作品です。
天使が指を一本伸ばし、マタイに具体的な指示を与えている様子が特徴的で、物語の進行が視覚的に伝わります。聖マタイは皺の刻まれた顔に真剣な表情を浮かべ、頭を傾けて天使の言葉に耳を傾けつつペンを進めています。この作品では、天使の優雅で柔らかな動きと、マタイの力強く現実的な姿が対照的に描かれ、神聖さと人間性の交わりを表現しています。
また、カラヴァッジョらしい劇的な光と影のコントラスト(キアロスクーロ)は、場面全体に緊張感をもたらし、視線を自然に主要な登場人物に集中させます。背景は暗く、物語の核心となる二人のやりとりが浮かび上がるように配置されています。
この絵は、神の導きによる啓示がどのように人間の行動に影響を与えるかを視覚的に示し、観る者に神聖と現実の調和を印象付ける力強い作品となっています。

聖マタイと天使
Date.Date.1602

バッカス

ローマ神話の酒神バッカスを描いたものです。
画面には、果実とワインが溢れるテーブルの前に座る若いバッカスが写実的に描かれています。彼は豪華な衣装をまとい、手には赤ワインの入った杯を差し出す仕草を見せていますが、その表情にはどこか冷ややかで挑発的な雰囲気が漂います。バッカスの顔色は少し赤みを帯びており、放蕩の象徴としての役割を強調しています。
果物やワインの静物描写は細部まで緻密で、熟した果実や腐りかけた部分が生々しく表現され、人生の儚さや時間の流れを暗示しています。
この作品では、神話の神々しいイメージではなく、地上的で人間的なバッカス像が提示されており、観る者に贅沢と享楽の裏に潜む現実を示唆しています。
カラヴァッジョの写実的な技法と光と影の劇的な対比が、人物と静物の両方に深みを与え、鑑賞者を魅了する一作です。

バッカス
Date.Date.1596

ホロフェルネスの首を斬るユディト

旧約聖書「ユディト記」の場面を描いたものです。
ユディトはイスラエルを救うため、敵将ホロフェルネスを誘惑して寝室に招き入れた後、剣で彼の首を切り落とします。画面中央には、冷静で毅然とした表情のユディトが描かれ、彼女の白い肌と豪華な服装が血塗られた場面の中で際立っています。彼女の右手には剣が握られ、ホロフェルネスの首を斬る瞬間がリアルに表現されています。
ホロフェルネスの顔は苦痛と驚きに歪み、死の瞬間の劇的な表情が見事に捉えられています。ユディトを助ける老女の存在も、この行為の決意と緊張感を強調しています。カラヴァッジョの特徴であるキアロスクーロ(光と影の強いコントラスト)は、この暴力的な場面を際立たせ、観る者を強烈に引き込みます。
神の意思を果たす女性の力強さと、それを取り巻く生々しい現実感を同時に描き出した、カラヴァッジョの才能を象徴する一作です。

ホロフェルネスの首を斬るユディト
Date.Date.1598-1599

聖ペテロの磔刑

ローマのサンタ・マリア・デル・ポポロ教会に展示されています。
この絵は、キリストの弟子である聖ペテロが、自分はキリストと同じ方法で死ぬに値しないとして、逆さ磔刑を選んだ場面を描いています。画面には、磔刑の準備が進む劇的な瞬間が描かれ、聖ペテロが重い十字架の上に固定される様子が捉えられています。
ペテロは年老いた表情で苦悩をにじませながらも、意志の強さを失わない姿勢が印象的です。一方で、十字架を引き上げる3人の男たちは、筋肉の緊張感や動きがリアルに表現され、画面に力強さと現実感を与えています。背景は暗闇に包まれ、光は登場人物たちに集中し、場面の緊張感と神聖さを強調しています。
カラヴァッジョの光と影の技法(キアロスクーロ)を最大限に活かし、苦しみと献身のドラマを視覚的に物語ると同時に、人間の内なる強さを際立たせる一作となっています。

聖ペテロの磔刑
Date.Date.1601

果物籠

シンプルながらも深い象徴性を持つ作品です。
籠の中には、熟したブドウやイチジク、リンゴ、そして葉が生い茂る果物が描かれていますが、一部の葉は枯れかけており、果物にも傷や腐敗が見られます。このようなリアルな描写は、豊穣とともに時間の経過や生命の儚さを暗示しています。
背景は単純化されており、果物籠がテーブルの端に置かれた状態で描かれることで、観る者の視線は完全に対象に集中します。カラヴァッジョの光と影のコントラストが、果物一つ一つの質感や立体感を際立たせ、静物画でありながら劇的な存在感を生み出しています。
宗教的主題を持たないにもかかわらず、人間の生と死、そして時間の儚さといった普遍的なテーマを想起させる、カラヴァッジョの独自の才能を象徴する一枚です。

果物籠
Date.Date.1599

エマオの晩餐

キリストの復活後にエマオの村で弟子たちと食事を共にする場面を描いています。
画面では、キリストが弟子たちと共にテーブルを囲み、パンを裂こうとする瞬間が捉えられています。キリストの手がパンを裂く動作に焦点が当たり、その周囲にいる弟子たちは驚き、顔を見合わせています。キリストの顔は穏やかで、無言で真実を示すような表情をしていますが、弟子たちはその瞬間に初めて彼の正体に気づき、驚愕の表情を浮かべています。
カラヴァッジョは、キアロスクーロ(光と影の強調)を駆使し、明暗のコントラストによって登場人物たちの感情と場面の緊張感を際立たせています。特にキリストの姿とその手の動きは、神聖さを強調しながらも、非常に人間的で現実的に描かれています。
宗教的なテーマを扱いながらも、日常的で普遍的な感情を引き出し、観る者に深い印象を与える一作です。

エマオの晩餐
Date.Date.1601

ゴリアテの首を持つダビデ

旧約聖書のダビデとゴリアテの戦いを描いています。
この絵では、ダビデが勝利を収め、ゴリアテの首を持って立っていますが、カラヴァッジョはダビデの表情に複雑な感情を込めています。ダビデはまだ若く、勝利の喜びよりもむしろ何かしらの憂いを感じさせる表情を浮かべ、その手に持つゴリアテの首は、生々しくも冷徹に描かれています。
ゴリアテの顔は苦痛と驚きに歪み、死の瞬間を強調していますが、ダビデの姿勢はどこか無防備で人間らしさが感じられます。この作品における光と影の使い方(キアロスクーロ)は、ダビデとゴリアテの対比を際立たせ、ダビデの若さや未熟さ、そしてゴリアテの巨大さと圧倒的な力を象徴的に表現しています。
カラヴァッジョはこの伝説的な場面を通じて、単なる英雄的勝利ではなく、戦争や暴力の後に残る内面的な葛藤をも描き出しています。

ゴリアテの首を持つダビデ
Date.Date.1609-1610