ウジェーヌ・ドラクロワの作品一覧・解説『民衆を導く自由の女神』、『サルダナパールの死』

ウジェーヌ・ドラクロワの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。

民衆を導く自由の女神

フランス七月革命を題材にしたロマン主義絵画には、自由を象徴する女性「マリアンヌ」がフランス国旗を掲げ、銃を手に民衆を先導する姿が描かれています。
背景にはパリのノートルダム大聖堂が見え、煙や瓦礫に包まれた戦闘のような光景の中に、さまざまな階層の市民が登場し、革命が広く民衆に広がっていたことを示しています。
自由の女神は半裸で古典的な美しさを備えながらも、現実の闘士としての力強さも感じさせ、象徴性と現実感がうまく融合されています。
絵全体からは躍動感や緊張感が伝わってきて、ロマン主義ならではの感情表現と政治的なメッセージが見事に組み合わさった名作となっています。

民衆を導く自由の女神
Date.Date.1830

サルダナパールの死

古代アッシリア最後の王サルダナパールが、敵軍の侵入を目前にして、自らの死とともに愛人や財宝、家臣までもろとも焼き尽くそうとする劇的な瞬間を描いたロマン主義絵画です。
バイロンの戯曲をもとにしており、暴力と官能、美と死が入り混じる壮絶な場面が、巨大な画面いっぱいに広がっています。
画面の中央には無表情で横たわる王が描かれ、そのまわりでは愛妾が殺され、混沌とした構図や強烈な色彩、激しい動きが特徴で、ロマン主義が重視する感情の激しさや、人間の極限状態が強調されています。
一見すると残酷な描写ではありますが、そこには美的な秩序やドラマ性も共存しており、当時の古典主義的な価値観に対する挑戦でもありました。

サルダナパールの死
Date.Date.1827

アルジェの女たち

ドラクロワが1832年にモロッコとアルジェリアを訪れた際の体験に基づいて描かれた、オリエンタリズムの絵画です。
作品には、異国の私的空間であるハーレムにいる3人の女性と黒人の召使いが描かれています。女性たちは豪華な衣装や装飾に身を包み、室内は繊細な光と豊かな色彩にあふれ、静かな官能性やどこか憂いを感じさせる雰囲気が漂っています。
この絵画には、西洋の視点から見た東洋への憧れや幻想が投影されており、細密な描写や柔らかな色調を通じて、野蛮さや暴力ではなく、穏やかで洗練された異国情緒が表現されています。
ロマン主義的な想像力と、ドラクロワ自身の現地での観察が融合した本作は、19世紀フランスにおけるオリエンタリズムの代表的な作品とされています。

アルジェの女たち
Date.Date.1834

ダンテの小舟

ダンテの『神曲』地獄篇の一場面を題材にしたロマン主義絵画で、地獄の川スティクスを渡る小舟に乗ったダンテと導師ヴェルギリウス、そして水中でもがく苦しみの亡者たちの姿が描かれています。
ダンテは恐怖に満ちた表情で身をすくめており、それに対してヴェルギリウスは冷静さを保ち、対照的な姿勢を見せています。周囲の亡者たちは苦悶の表情と激しい動きで画面に緊張感を与えており、地獄の壮絶な情景が生々しく表現されています。
構図にはミケランジェロやラファエロの影響が見られるものの、鮮やかな色彩や力強い筆致によって、ロマン主義ならではの情熱と感情が強く表れています。
古典文学の主題と画家自身の内面的な感情が融合することで、この作品には大きな力強さと深みが生まれています。
ドラクロワの出世作としても知られ、その芸術的価値は非常に高く評価されています。

ダンテの小舟
Date.Date.1822

キオス島の虐殺

1822年にオスマン帝国軍によってギリシャのキオス島で引き起こされた大虐殺を題材としたロマン主義絵画であり、戦闘そのものではなく、絶望と苦悩に満ちた民間人の姿が中心に描かれています。
画面には、鎖につながれた捕虜や、死に瀕した子どもと母親、そして無力な老人たちが描かれ、人間が暴力によってどれほど深い悲惨に陥るかが強調されています。
この作品には明確な中心人物は存在せず、画面全体に混乱と苦痛の空気が漂っています。
温かみのある色調と、強い陰影との対比が、登場人物たちの感情の深さをより印象づけています。
また、この絵画には、当時進行していたギリシャ独立戦争に対する共感と、人道的な訴えが込められており、ロマン主義の情熱と社会的関心が結びついた代表的な作品とされています。

キオス島の虐殺
Date.Date.1824

墓場の少女

戦乱の中で家族を失った若い女性が、荒れ果てた墓地に座り込む姿を描いたロマン主義絵画です。
静寂な場面の中に、深い悲しみと絶望がにじみ出ており、見る者の感情に強く訴えかけます。少女は何かを見上げる姿勢で地面に座っており、その背後には壊れた墓標や荒れた風景が広がり、死と喪失の象徴として描かれています。
全体の色調は沈んだ暗いトーンで構成されており、光と影の対比によって、少女の内面的な苦悩がより際立っています。
この作品は、特定の事件や文学作品に基づいてはいませんが、普遍的な人間の悲しみや孤独を象徴的に表現しており、ドラクロワの内面的な感情や詩的な感性が色濃く表れた初期の傑作として評価されています。

墓場の少女
Date.Date.1823

ミソロンギの廃墟に立つギリシア

ギリシャ独立戦争中のミソロンギ包囲戦で多くの市民が命を落とした悲劇を背景に、擬人化されたギリシアを女性像として描いたロマン主義絵画です。
白い衣をまとった女性は、廃墟と化した城門の前で膝をつき、胸に手を当てて祈るような姿勢をとっています。
その足元には横たわる死者が描かれ、彼女の姿は絶望の中にある抵抗、そして希望の象徴として表現されています。
画面全体は静謐な構図と柔らかな色彩で構成されており、深い哀悼の感情が丁寧に描き出されています。
この作品は、ギリシャ独立戦争への政治的共感と、ロマン主義が追求した芸術的理想とが融合したものとして高く評価されており、詩的かつ象徴的な表現によって観る者の心を強く揺さぶります。

ミソロンギの廃墟に立つギリシア
Date.Date.1826