
エル・グレコの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
トレド風景
スペイン美術史上まれな純風景画で、幻想的なビジョンが際立つ作品です。
トレドの街並みが実際の地形を離れて再構成され、丘の上に不気味に浮かぶように描かれています。
暗雲が渦巻く空と不自然な緑の大地が強いコントラストをなしており、都市を取り巻く自然が人間の精神状態を映し出すかのようで、建築物は縦に引き伸ばされ、遠近法よりも象徴性が重視され、現実というより霊的ヴィジョンに近い印象を与えます。
特に街を見守るように置かれたアルカサルやカテドラルは、宗教的中心地としてのトレドの象徴となっており、光の扱いは神秘的で、街の一部だけが劇的に照らされ、神の存在や預言的な意味合いを感じさせます。
この作品は風景を単なる自然描写ではなく、内面的・霊的体験として昇華した点で、西洋絵画における異例かつ革新的な作品とされています。

Date.1600
オルガス伯の埋葬
スペイン・トレドの聖トメ教会のために制作された宗教画で、聖人と現実の世界が交錯する壮大な構成が特徴です。
作品は、14世紀の慈善家オルガス伯の埋葬に聖アウグスティヌスと聖ステファノが天から降りて参加したという奇跡を描いており、画面下部では写実的な肖像で現実の人々が、上部では霊的な世界が幻想的に表現されています。
死と救済、天と地、現実と超越を一枚の画面に統合し、縦長の構図、引き伸ばされた人体、劇的な光と色彩により、神秘的かつ精神的な緊張感を生み出しています。
この作品はエル・グレコのマニエリスム様式と宗教的感性の頂点を示す傑作とされています。

Date.1580
聖衣剥奪
キリストが十字架に磔にされる直前、兵士たちによって衣をはぎ取られる場面を描いた作品で、スペイン・トレド大聖堂の聖具室のために制作されました。
画面の中央には赤い衣をまとったキリストが静かに立ち、その周囲を取り巻く兵士や群衆が激しい動きや表情で対比を成し、暴力と神聖の対立が際立っています。
縦長の構図、引き伸ばされた人物像、鮮やかな色彩と神秘的な光の扱いにより、精神的な高揚と超越的な雰囲気が強調されています。
エル・グレコ独特の様式と宗教的感情が結びついた初期の代表作であり、彼のスペイン時代の画風を確立した重要な作品とされています。

Date.1579
胸に手を置く騎士
スペイン貴族の威厳と内面性を表現した肖像画で、黒衣に白い襞襟をつけた男性が胸に右手を置き、静かに正面を見つめる姿が描かれています。
手のジェスチャーは誓いや誠実、名誉を象徴し、背景を排した構成と緊張感のある表情が精神性を際立たせています。
写実と理想化が融合した描写、繊細な光の扱い、縦長で引き締まったフォルムはエル・グレコ独自の様式を示しており、スペイン肖像画の傑作の一つとされています。
モデルは不明ながら、騎士道的な美徳と個人の内面を視覚化した象徴的な作品です。

Date.1597-1600
聖三位一体
初期スペイン時代の代表作の一つです。
本作はキリストの遺体を抱く神(父)と、上空に飛ぶ聖霊(鳩)によって三位一体(父と子と聖霊)を象徴的に描いています。
キリストの体は死後の苦しみを物語るように青白く、神の威厳ある表情と対照を成しており、悲しみと神秘性を強調しています。両脇には天使たちが配され、天上の荘厳さを高めています。
背景には光と影が激しく対比される曇天が広がり、超自然的な雰囲気を演出し、縦長の構図や引き伸ばされた人体、激しい色彩と感情表現はエル・グレコ特有のマニエリスム様式の特徴であり、神の神秘と救済の深淵を視覚的に表現しています。
この作品はトレドのサント・ドミンゴ・エル・アンティグオ修道院の高祭壇画の一部として制作され、エル・グレコのスペイン画壇への登場を印象づけた重要作とされています。

Date.1779
羊飼いの礼拝
晩年の宗教画で、イエス・キリストの誕生を祝福する羊飼いたちの神秘的な情景が描かれています。
画面中央には布に包まれた幼子イエスが置かれ、そこから発する神聖な光が周囲の人物を照らす構図になっており、光の源をイエス自身に置くことで神性を強調しています。
羊飼いたちは感情豊かに手を合わせ、驚きと崇敬の表情で幼子を見つめ、マリアやヨセフも敬虔な面持ちで寄り添っています。
人物像は典型的なエル・グレコ様式で、縦に引き伸ばされ、動きのあるポーズと強い明暗が精神的高揚を生み、背景は曖昧で、天使たちが上空に舞い、天と地のつながりを示唆しています。
全体として劇的な光と色彩、霊的表現を通じて、救い主の誕生がこの世にもたらす神秘と恵みを視覚的に表現した作品であり、エル・グレコの宗教的情熱と晩年の精神性が色濃く反映されています。

Date.1614
聖マルティヌスと乞食
イエス・キリストの誕生を祝福する羊飼いたちの神秘的な情景が描かれています。
画面中央には布に包まれた幼子イエスが置かれ、そこから発する神聖な光が周囲の人物を照らす構図になっており、光の源をイエス自身に置くことで神性を強調しています。
羊飼いたちは感情豊かに手を合わせ、驚きと崇敬の表情で幼子を見つめ、マリアやヨセフも敬虔な面持ちで寄り添っています。
人物像は典型的なエル・グレコ様式で、縦に引き伸ばされ、動きのあるポーズと強い明暗が精神的高揚を生んでおり、背景は曖昧で、天使たちが上空に舞い、天と地のつながりを示唆しています。
全体として劇的な光と色彩、霊的表現を通じて、救い主の誕生がこの世にもたらす神秘と恵みを視覚的に表現した作品であり、エル・グレコの宗教的情熱と晩年の精神性が色濃く反映されています。

Date.1597-1599
聖母被昇天
スペインで最初に手がけた重要な祭壇画の一部として知られています。
聖母マリアが天に昇る瞬間を描き、画面は地上の使徒たちと天上のマリアという二層構造になっています。
下部には空の墓を囲んで驚きと畏敬に満ちた使徒たちが配され、上部には天使たちに囲まれたマリアが軽やかに昇天していく様子が描かれています。
マリアの姿は引き伸ばされ、宙に浮かぶようなポーズで神秘的な浮遊感を表現しており、全体にわたって動的な構図と渦巻くようなエネルギーが印象的で、色彩は豊かで、赤や青を基調とした衣が聖母の神聖さを引き立て、天と地を繋ぐ強い光と構図によって霊的な上昇が視覚化されています。
この作品はヴェネツィア派の色彩感覚とマニエリスムの形式が融合したもので、エル・グレコのスタイルを確立させ、トレドでの名声を高めるきっかけとなった傑作とされています。
