
カミーユ・ピサロの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。
目次
カラカスのピサロとフリッツ・メルビューのアトリエ
若き日にヴェネズエラに滞在していた1852〜1854年頃に描かれた作品で、画家としての出発点を物語る重要な絵画です。
ピサロは生まれ故郷の西インド諸島サン=トマ島から、デンマーク人画家フリッツ・メルビューと共にベネズエラへ渡り、カラカスで共同生活を送りながら絵画を学びました。
この作品にはそのアトリエの様子が描かれ、互いに切磋琢磨しながら制作に励む二人の青春期が写し取られています。
技法的には、後年の印象派的な筆致に比べるとまだ堅実で写実的であり、輪郭線や陰影を重視したアカデミックな描写が見られますが、光の取り込みや空気感を意識する萌芽もすでに確認でき、後の印象主義への展開を予感させます。
題材としても単なる室内風景ではなく、芸術家同士の交流と修業時代の空気を象徴的に記録しており、ピサロがヨーロッパ留学前に築いた国際的視野や芸術的自立への志向を理解する上で貴重な作品です。

Date.1854
ジャレの丘
フランスの田園風景を描いた印象派の代表的な作品です。
この絵では、丘陵地帯に広がる畑や木々、遠くに見える村の家々が穏やかな光の中で描かれ、自然の豊かさと静けさが表現されています。
ピサロは柔らかな筆致で木の葉や草の質感を丁寧に描き、光と影の微妙な変化によって立体感と奥行きを出しており、空は淡い青と白で広がり、地平線までの遠景を際立たせ、見る者の視線を自然に丘の上へと誘います。
色彩は緑や土色を基調に、光の当たり方による明暗の差で風景の表情を豊かにし、日常的な田園風景に生き生きとした印象を与えています。
自然と人間の生活が調和した穏やかな風景を描く点が、この作品の特徴です。

Date.1867
夜のモンマルトル大通り
パリの夜景を印象派の視点で捉えた作品です。
この絵では、街灯に照らされた大通りや建物、人々の動きが柔らかな筆致で表現され、夜特有の光と影の効果が強調されています。
ピサロは明暗のコントラストを巧みに用い、通りの奥行きや空間感を演出しています。車馬や歩行者の輪郭はあえて明瞭に描かず、光の反射やぼんやりとした色彩で表現することで、夜の活気と静寂が同時に感じられる雰囲気を作り出しています。
全体に青や茶、淡い黄色など抑えた色調を用いることで、夜の空気感や都市の落ち着きを繊細に伝えています。
モンマルトルという活気ある地区の一瞬の静けさと、都市の生活のリズムを同時に捉えた点が特徴です。

Date.1897
エラニーでの干し草作り
農村の日常風景を描いた印象派の作品です。
画面には広がる田園と、干し草を積む農民たちの姿が描かれ、柔らかい筆致と明るい色彩で光の効果が巧みに表現されています。
丘陵や木々、遠景の空の変化が細やかに描かれ、自然の空気感と季節の移ろいが伝わります。
ピサロは労働する人々の姿を温かく捉えつつ、農村生活の静けさと豊かさを同時に表現しており、観る者に穏やかで生き生きとした印象を与える作品です。

Date.1887
ポントワーズのエルミタージュ
フランス北部ポントワーズの町並みとその周囲の風景を描いた印象派作品です。
この絵では、町の建物や教会、川沿いの道が穏やかな光の中で描かれ、日常の静かな風景の美しさが強調されています。
ピサロは柔らかな筆触で樹木や水面の反射を表現し、光と影の微妙な変化で奥行きと立体感を生み出し、色彩は落ち着いた緑や茶、灰色を基調に、空の明るさや日光の反射で画面に温かみと自然な明暗を加えています。
人物や生活の痕跡は最小限にとどめ、町と自然の調和した風景を静謐に描くことで、印象派特有の観察力と日常美の表現が感じられる作品です。

Date.1867
二人の若い農婦
農村の日常生活を描いた作品で、若い女性二人が野外で作業する姿が中心に描かれています。
柔らかい筆致と明るい色彩で光の当たり方が表現され、衣服や背景の自然の質感が丁寧に描かれており、農婦たちの動作や姿勢には自然なリズムがあり、静かで落ち着いた農村の雰囲気が伝わります。
ピサロは人物と風景を一体として描くことで、日常の生活感と穏やかな自然の調和を印象的に表現しています。

Date.1891-1892
フォックスヒル、アッパーノーウッド
イギリスの田園風景を描いた印象派作品です。
この絵では、丘陵地帯に広がる森や道、点在する家屋が自然光の中で柔らかく表現され、穏やかで落ち着いた雰囲気が漂っています。
ピサロは細やかな筆触で木々の葉や地面の質感を描き、光の当たり方による明暗の変化で立体感と奥行きを生み出しており、色彩は緑や茶色、黄土色を中心に、空の淡い青と組み合わせることで自然の豊かさと季節感を巧みに表現しています。
人の存在はほとんど描かれず、森と丘、道が織りなす風景そのものの美しさと静謐さを際立たせている点が特徴です。

Date.1870
エラニーの林檎の収穫
晩年に拠点としたエラニー=シュル=エプトの農村風景を題材にしています。
ピサロは印象派の画家の中でも特に農民の生活や労働を尊重し、都市の華やかさではなく素朴で普遍的な日常を描き続けました。
この作品では果樹園で林檎を収穫する女性たちが描かれ、自然と人間の調和が温かい雰囲気で表現されています。
技法的には細やかな筆致と柔らかい色彩を重ね、木漏れ日や大気の揺らぎを繊細に表し、印象派特有の光の効果が感じられ、構図には点描に近いタッチが見られ、同時期に親交を深めたスーラやシニャックの新印象主義の影響も反映しています。
単なる風俗画ではなく、農村共同体の営みを詩情豊かに讃える本作は、ピサロが社会的リアリズムと印象主義を融合させた代表的成果の一つといえます。

Date.1888
ルーヴシエンヌのヴェルサイユへの道
ルーヴシエンヌの田園風景とそこを通る道が描かれており、自然光の変化や大気の効果が丁寧に捉えられています。
ピサロは点描的ではなく、筆触を活かした柔らかいタッチで木々や空、地面の質感を表現し、日常の静かな風景に生き生きとした動きを与えています。
道が画面の奥へ向かって延びる構図により、視線が自然に遠景へ導かれ、ルーヴシエンヌからヴェルサイユへの広がりを感じさせ、色彩は落ち着いた緑や土色を基調に、光の当たり方による明暗差で立体感を出しており、印象派特有の自然観察の深さがうかがえます。
都市や人工物の存在感を最小限に抑え、自然と人間の生活が共存する日常の風景を温かく描き出している点も特徴です。
