エゴン・シーレの作品一覧・解説『抱擁』、『死と乙女』

エゴン・シーレの有名(ポピュラー)な作品から、あまり知られていない作品までを厳選して紹介いたします。

ウォーリーの肖像画

鋭い線描と歪んだ人体表現が特徴的な作品です。
被写体であるウォーリーはウィーンのモデルであり、シーレの恋人・ミューズでもありました。多くの肖像画や素描のモデルを務め、シーレの代表作のいくつかにも登場しています。
ウォーリーの身体や手指は細長く、関節の角度が強調されることで内面の緊張や不安が視覚的に表現されています。
背景は簡素でほとんど装飾がなく、人物の存在感が際立っています。
色彩は落ち着いた淡色が中心で、肌の微妙な陰影と血色が感情の繊細さを伝えています。
シーレ特有の線の強弱と歪みが、肖像に生々しい生命感と心理的深みを与えており、観る者に被写体の内面的世界を直接的に感じさせ、全体として、外面的な姿勢や表情よりも、心理的な緊張や孤独感を重視した表現が際立つ作品です。

ウォーリーの肖像画
Date.1912

死と乙女

死と生、愛と喪失のテーマを象徴的に描いた作品です。
画面中央で女性は死を象徴する骸骨に抱かれ、無防備でありながらもどこか受容的な姿勢を示しています。
シーレ特有の鋭く強調された線描と歪んだ人体表現により、緊張感と脆弱さが同時に伝わり、色彩は暗い背景に対して肌の淡い色が対比され、死の冷たさと生の儚さを際立たせています。
感情表現は極めて直接的で、恐怖や悲哀、愛情といった複雑な心理が観る者に迫ります。
個人の存在の有限性と生命の脆さを強く訴える、シーレの心理的描写の集大成とも言える作品です。

死と乙女
Date.1915

抱擁

人間関係における親密さと緊張感を同時に表現した作品です。
二人の人物は互いに抱き合っていますが、細長く歪んだ手足や角度の強調により、単なる愛情表現ではなく心理的な不安や葛藤も感じさせます。
線描は鋭く力強く、人体の輪郭や関節の緊張を際立たせており、色彩は抑えられたトーンが中心で、背景の簡素さが人物の存在感を際立たせ、感情の生々しさを強調しています。
全体として、身体的接触を通じて心理的な結びつきと脆さを同時に描き出す、シーレ独特の表現が見られる作品です。

抱擁
Date.1917

自画像

鋭い線と歪んだ人体表現が特徴で、心理的な内面の不安や孤独感を強く映し出しています。
画面構成はシンプルで背景はほとんど描かれず、人物の身体や顔が画面中央に集中しており、視線は観者を直接捉えます。
手や指は長く不自然に伸び、関節や骨の輪郭が強調されることで緊張感が生まれています。
色彩は肌の赤味や影の濃淡が鮮明で、感情の鋭さを強調して、外見よりも精神状態や感情の表現に重点を置いた作風で、シーレ独自の自己探求と孤独感を象徴する作品です。

自画像
Date.1912

アントン・ペシュカ

友人である画家アントン・ペシュカを描いた肖像画で、対象の個性と精神性を鋭く捉えています。
輪郭線はシーレ特有の細く歪んだ線で描かれ、顔や手の形状がやや誇張されていることで人物の内面の緊張感や感受性が表現されています。
色彩は落ち着いたトーンが中心で、陰影によって立体感が生まれ、人物像に存在感を与えています。
背景は簡略化され、人物自体が画面の焦点となっており、視線や姿勢からペシュカの内省的な性格や精神的な深さが感じられ、シーレの人間観察力と心理描写の鋭さが際立つ作品です。

アントン・ペシュカ
Date.1909

胎児と女

生命の生成と死や不安を象徴的に描いた作品で、人体の歪んだ表現が特徴です。
女性の体は細長く関節や骨格が強調され、胎児は母体内で不自然な姿勢をとっており、緊張感と脆さが同時に伝わります。
色彩は肌の赤味や影の濃淡で感情的な強さを増しており、背景は簡略化されることで人物と胎児が画面の中心に際立ちます。
全体として、生命の脆弱さや人間存在の不安、性的・生殖的テーマに対するシーレ独自の内面的探求が表現された作品です。

胎児と女
Date.1910

家族

親密な人物関係を描きながらも、心理的緊張と孤独感が漂う作品です。
人物の輪郭や手足は細く歪められ、関節や骨の線が強調されることで、肉体的な不安定さと精神的な緊張を表現しています。
色彩は落ち着いたトーンながらも肌や影の濃淡で感情の深みが強調され、背景は簡略化されることで登場人物が画面の中心に浮かび上がります。
構図は互いに寄り添う姿勢を取りながらも、視線や姿勢の微妙なずれから孤独や個々の内面の葛藤が感じられます。
心理描写と家族関係における複雑な感情を象徴的に示した作品です。

家族
Date.1918